高橋真梨子の「夢の途中」がすばらしすぎる

hisashi toshima 戸嶋 久
4 min readJul 27, 2020

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高橋真梨子 / ClaChic

高橋真梨子にはカヴァー・アルバムがわりとあるみたいですけど、2015年の『ClaChic』に偶然行き着き、このなかの4曲目「夢の途中」のあまりの哀切感(サウダージ)にノック・アウトされてしまいました。こ〜れは最高じゃないですか。おなじみ来生たかお&えつこコンビが書き、たかおと薬師丸ひろ子が1981年に(別々に)歌ったヴァージョンが初演の名曲です。

高橋の「夢の途中」を聴くまで、実を言うとこの曲がここまでサウダージきわまっているすばらしい名曲だと気づいていなかったような気がぼくはします。高橋ヴァージョンに行き着いたのは、森恵がこの曲をカヴァーしているのを聴き、それでちょっと気になって Spotify で曲検索してみたわけなんです。そうしたら高橋ヴァージョンが出たのでなんの気なしにふらっと聴いてみて、やられちゃったんですね。

高橋の「夢の途中」はボサ・ノーヴァにアレンジされています。それも大成功。アレンジャーがだれだったのかすごく知りたい気持ちですけど、ふわっとやわらかいソフトでおだやかな風のようなサウンドとリズムで、まるでフィーリンみたいでもあるし、ギターとピアノを中心とするリズム・セクションの軽い演奏にくわえ、丸くてやわからいフルート+ハーマン・ミューティッド・トランペットでリフを演奏し、ストリングスがふわっとただよっているという、なんだか極上の雰囲気なんですね。

そんなボサ・ノーヴァ・フィーリンな伴奏に乗って、「夢の途中」の高橋は歌詞の意味をひとことひとこと噛みしめて、聴き手にじっくり語りかけ伝えようとするように、きわめてていねいにていねいに、つづっていますよね。その解釈と発音・歌唱のていねいさにぼくは感服するわけです。声質もおだやかで、年齢を重ねてやや衰えたという面がかえってこの曲の意味とフィーリングをよりよく、深みを増して表現できることにつながっていると思うんです。

も〜う、こんなにも最高に切なさが沁みてくる「夢の途中」は聴いたことがないんですけど、これをふくむ『ClaChic』というアルバムは、高橋が2015年にいままで触れてきた歌謡曲の歴史をふりかえり、自身の選曲でこれをカヴァーしたいという名曲をとりあげて、熟年なりの枯れて丸い味わいで歌ってみた、伴奏のアレンジはジャジーにしっとりした感じでまとめながら、といったものです。

そしてボサ・ノーヴァな「夢の途中」だけでなく、このアルバムのなかにはけっこうなラテン・テイスト、それも軽いフィーリンふうなラテン・テイストがわりとあるんですね。アルバム前半はそうでもないですが、4曲目「夢の途中」の極上さを経て、6曲目「バス・ストップ」(平浩二)でグッと来ますよね。(ほかの曲でも聴ける)このエイモス・ギャレットみたいな星屑エレキ・ギターはだれなんでしょう?

軽いデジタル・ビートが味な7「黄昏のビギン」(水原弘)は完璧なボレーロ/フィーリンですし、このサウンドが極上なのにくわえ、高橋のやわらかいヴォーカルがまた聴かせます。以前のペドロ&カプリシャス時代と比べても、やはり年齢を重ねたことによるちょうどよい枯れ具合で、声も丸くなって聴きやすくなっているし、落ち着いた雰囲気で(衰えたからこそ)淡々と歌をつづっていくこの経験のなせる境地に感嘆します。

やはり鮮明なボレーロに仕上がっている8「遠くへ行きたい」(ジェリー藤尾)や、薄味フィーリン・テイストのこれも切なさきわまる9「明日になれば」(ザ・ピーナッツ)などもすばらしい味です。サウンドがいい、極上だということで、本当にアレンジャーだれなんでしょうね?高橋のヴォーカルも切なさ爆発ですよ。10「ふれあい」(中村雅俊)もボサ・ノーヴァです。やはり軽くてソフトでおだやかな12「家へ帰ろう」(髙橋真梨子)や、レゲエな「Pocketful of Rainbows」(エルヴィス・プレスリー)もグッドですね。

(written 2020.6.5)

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Written by hisashi toshima 戸嶋 久

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