即興系クリス・デイヴィスの2019年作がけっこういい
岡崎 凛さんのこのツイートで知ったアルバムです。
ジャズ・ピアニスト、クリス・デイヴィス(Kris Davis)の2019年作『Diatom Ribbons』がなかなかいいですよね。多彩なゲストを、それも一曲ごとにさまざまにチェンジしながら、起用しているのも特色のひとつで、そのなかでも二名のテナー・サックス奏者、J.D. アレンとトニー・マラビー、それからギターリストのネルス・クライン(ウィルコ)が印象に残りました。ネルスのことは以前 bunboni さんもビックリされていましたよね。
ドラマーのテリ・リン・キャリントンもすごくいい感じに聴こえるけど、じゃあそのネルスのギターの話からすれば、まず3曲目の「Rhizomes」。ネルスの即興系ギターをフィーチャーした一曲で、いやあすごいなあ、ネルス。がんがん弾きまくるパッショネイトな演奏ぶりでもりあがり、聴いていて興奮します。この一曲だけでもクリス・デイヴィスのこのアルバムにネルスが参加した意味があろうというものです。
リーダーのクリス・デイヴィスはふだんトリオで活動しているんでしたっけ?、でもピアニスト中心のトリオ編成がイマイチなぼくですから、こうやってギターリストやサックス奏者やヴォーカリスト、さらにターンテーブル奏者などとどんどんいっしょにやっている音楽のほうがグッときます。実際『Diatom Ribbons』はなかなかの即興系マスターピースじゃないでしょうか。
それにしても3曲目でのネルス・クラインのエレキ・ギター・ソロは情熱的で聴きごたえありますが、アルバムにはもうひとり、マーク・リボーも参加しているんですね。たとえば8曲目「Golgi Complex (The Sequel)」でのギター・ソロはマークひとりで、さらに続く9曲目「Golgi Complex」でネルスとマークの二名共演が聴けるというわけです。聴き分ける耳をぼくは持っていませんので、9曲目のほうではそのピアノ・トリオ+2ギターの完全フリー即興に、ただただすごいと感心して、口あんぐりで聴いているだけ。
7曲目「Certian Cells」にもネルスが参加していますが、ここではネルスの浮遊するギターではなくて、テリ・リン・キャリントンのドラミングが聴きもの。複雑な変拍子を難なく叩きこなしグルーヴするのがすごいです。特に前半部でのリム・ショットの使いかたなんか聴きものじゃないですか。+ハイ・ハット&ベース・ドラムで、後半はスネアでも打面に移行しますが、曲全体でテリしかぼくは聴いてないですね、この7曲目のばあい。いやあ、手練れドラマーです。
そしてアルバムのハイライトはどう聴いてもラスト10曲目の「Reflections」でしょう。ここではギターなし、J.D. アレンとトニー・マラビーのテナー・サックス奏者二名がフィーチャーされています。とても綿密によくコンポーズされた(?)あるいは全面即興の(?)一曲で、最初ふわっとした感じではじまりますが、前半は一人が(どっち?)淡々としたサックス・ソロを展開。
しかし中盤でのクリスのブロック・コードがんがんで雰囲気が一変します。がんがんのあとドラマーの強いビートが入ってきて敢然とリズムを刻みはじめてからが個人的には本番ですね。まずサックス・アンサンブルに続き、前半とは異なるサックス(音色が違うから、でもどっちがどっち?)奏者がパッショネイトなソロで魅了します。その激しい熱量に完全にノック・アウトされちゃうんですね。この10曲目後半でのテナー・サックス・ソロこそ、このクリス・デイヴィスの2019年作で最ものめり込める時間です。
(written 2020.2.1)