マイルズ・デイヴィス新入門ガイド 2022
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ブログのアクセス解析をながめていると、ぼくはどうやらマイルズ・デイヴィスの専門家とみなされているようで、もちろんそうです。ここのところはなんだかマイルズ入門としてどこから聴けばいいの?っていうたぐいの情報を求めてごらんになっているケースが多少あるのかもしれないな、という実感があります。
ブートレグでそういった記事をあらためて書く気はあまりなくなったと以前言いましたが、公式アルバムならその場でサッとSpotifyリンクを貼ってご紹介できるので、サブスク時代のいま、じゃあ書いておこうかな、マイルズ再入門2022ガイドを。
ひょっとしてあらたに or はじめてマイルズを聴いてみたいけど、アルバム数も情報量も多すぎて、とりあえずなにを聴けばいいか戸惑ってしまうという(お若くなくても)リスナーはいらっしゃるでしょうからね。いまふたたびのマイルズ・ブームかどうかはわかりませんが。
そいで、マイルズ入門的なガイド・ブックはいままでた〜っくさん出ました。Webにも同種の記事は多いです。そういうのに掲載される機会の少ない、しかしほんとうに上質の音楽なんだけどなぁ、どうしてあまり話題にならないの?っていうあたりを書くのがぼくの仕事でしょうから、そのへんを中心に以下九作。
リリース年(カッコ内)順に並べました。パッとごらんになって、ジャケット・デザインがいい感じだからこれにしようかなっていうような選びかたでおっけ〜。お勉強的なことじゃなく、楽しまなくっちゃね。
1)Miles Davis and Milt Jackson Quintet / Sextet (1956)
軽快で明るいブルーズ中心。油分の薄いさっぱりした演奏がいいですね。ミルト・ジャクスンがうまあじなので、ヴァイブラフォン好きにも推薦できます。
2)Miles Ahead (57)
ギル・エヴァンズと組んだオーケストラ作品で、ソロはもっぱらマイルズをフィーチャー。きっちりアレンジされた管楽器の響きと動かしかたがマジきれいで、ため息しか出ず。
3)Someday My Prince Will Come (61)
かわいらしくおだやかで日常的な、とんがったところのまったくないサロン・ミュージック。レギュラー・コンボでの落ち着いた丸みのある演奏が心地いいです。
4)In Person, Friday Night At the Blackhawk, San Francisco, Volume I (61)
(3)のバンドでのライヴ。「サタデイ」もありますが、ぼくは「フライデイ」が好き。配信には完全版しかないので、オリジナルLPどおりのプレイリストにしておきました。リズム・セクションのポップなスウィンギーさに熟達の味がよく出ています。
5)Miles In Berlin (65)
マイルズ・バンドによる「枯葉」はこれがいちばんいいような(トニーの印象派ドラミングもみごと)。ウェイン・ショーター加入後の初録音で、すでに甘みと情緒感を抑え鋭角的に斬り込んでいく新時代のジャズ・マナーが全体的に聴けます。
6)Filles de Kilimanjaro (69)
電気楽器を使ったカリブ〜アフリカ路線。数年前からの気分ではマイルズの№1傑作に選んでもいいのでは?と思っているくらい。ソウル〜ロック〜ファンクへのアプローチがあきらかになった時期ですね。
7)In A Silent Way (69)
なんだか90年代以後のクラブ世代にもアピールできるチルでドープな作品のようにいまでは聴こえ。とにかくさわやかでカッコいいし、静的でクールなたたずまいだってコンテンポラリーだし、もはや『ビッチズ・ブルー』(70)より断然こっち。
8)A Tribute To Jack Johnson (71)
ストレートでカッコいいギター・ロックなので、ロック好きにもいけるはず。特に1トラック目の「ライト・オフ」。これがマイルズ・バンドでのデビューだったマイケル・ヘンダスンのベースもファンキーでグルーヴィ。
9)Doo-Bop (92)
ラッパーのイージー・モー・ビーとのコラボで、サンプリングとデジタル・ビートを基調にしたヒップ・ホップ・ジャズ作品。先鋭的な感じはなくて、すっと聴きやすくポップなのがいいですね。ハーマン・ミュートをつけたトランペット・サウンドは50年代から変わらぬマイルズだけの水銀の音。
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マイルズ関係の教科書的な歴史的名盤ガイドみたいなのは、ホント、たくさんあふれかえっていて、ちょこっと調べればいくらでも出ますので、きょうはそういったあたりを迂回するようなセレクションを書きました。享楽の一助となればと幸いです。
(written 2022.8.24)