チック・コリアみたいなワールド・ジャズ・フュージョン 〜 セドリック・デュシュマン
bunboni さんに教わりました。
レユニオンのジャズ・ピアニスト、セドリック・デュッシュマン(Cédric Duchemann)の『トロピカリズム』(2019)は、端的に言ってチック・コリア・ライクなフュージョン作品と呼んでさしつかないでしょうね。ジャズをやるときのじゃなくてフュージョンをやっているときのチックにこのアルバムはそっくりなように思います。
ぼくはそういった音楽が大好きなんですね。ピアノやエレピの弾きかた、鍵盤への指のタッチ、フレイジング、バンドのサウンド・メイク、適度なスパニッシュ・スケール(アンダルシアふう)の使用、ノリやすい躍動的なリズムなど、セドリックの音楽はなにからなにまでチック・コリアのフュージョンにそっくり。いちおうレユニオンのミュージシャンらしい特色というかリズムも一部聴けますが、あまり表に出てはいません。
このアルバムで特に気に入っているのは、たとえばグエン・レーのギターをフィーチャーした2曲目「What Did He Say ?」や、テナー・サックス奏者のハード・ブロウが聴ける5曲目「Ségalougarou」、中盤からアクースティック・ピアノでのサルサふうな演奏が聴ける7「Roul dann’ touf bambou」などですが、いずれもさほど硬派な感触はなく、聴きやすい気楽な感じに仕上がっているのが個人的にはナイスと思っています。
ジャズ・フュージョンのなかでスパニッシュ・スケールを効果的に使うのはチック・コリアの得意技ですけれども、セドリックもわりとそれをやっていますよね。たとえば5曲目でもときおりアンダルシアふうになります。この曲は冒頭からピアノ左手低音部とエレベがユニゾンで合奏するリフが持ち味というか基盤になっていて、アンダルシアふうになるのはサビ部分だけ。そのコントラストがなかなかいいんです。セドリックはチックのやるフュージョンをよく聴いてよく学んだのではないかと思えるフシが存分にありますね。
曲づくりもアレンジやバンドでの演奏スタイル、ピアノのタッチのすみずみにいたるまで、セドリックのスタイルにはチック・コリア・フュージョンの影響が聴け、個人的印象としては間違いなくセドリックはチック・フォロワーだと言える気がします。カリブ〜ラテン色の強さもあいまって、このセドリックのワールド・ジャズ・フュージョンみたいな音楽がいい感じに仕上がっている最大の理由がチック・コリアの影響消化にありそうです。
ギターやサックスがソロで炸裂すると(このアルバムではエレキ・ギター・ソロが多い)カッコイイなと思ったり、マロヤなどレユニオン由来の音楽要素が聴けると楽しいと感じたりもしますが、セドリックのこのアルバムでの持ち味はむしろわかりやすく聴きやすいフュージョン路線にあって、それこそが味わいどころ。ですから硬派なリスナーのみなさんにはやや食い足りないと感じられたりするでしょう。
個人的にはこのセドリックの音楽のハードすぎない中庸的適切さ、乾いた感じと湿り気のちょうどいいバランスなど、聴きやすい要素満載で、リズムはカリブ/ラテンふうに躍動的ですし、複数の曲でところどころスパニッシュ・タッチが聴けるし、バンド演奏のよくアレンジされた熟練や調和も心地よく、聴いていてリラックスできて気分上々です。
(written 2020.2.10)