ストーンズ『ストリップト』をちょこっと
以前書いたテニール・タウンズ関連でどうしてだか思い出し聴きたくなったザ・ローリング・ストーンズの『ストリップト』(1995)。アクースティック・サウンドつながりっていうことかなあ、わかりませんが、とにかく今日はストーンズのこれを。さて『ストリップト』は全編アンプラグドで、しかもライヴ・アルバムであると思われているようにも思いますが、正確には違います。エレキ・サウンドもわりとあるし、スタジオ・セッションで収録したものがたくさんありますよね。
そんななかから今日はアクースティック・セクションのことをちょっと思い出したので聴きなおしています。数え上げると、1「ストリート・ファイティング・マン」(ライヴ)、5「蜘蛛とハエ」、7「ワイルド・ホーシズ」、8「レット・イット・ブリード」(スタジオ)、11「アンジー」(ライヴ)、12「ラヴ・イン・ヴェイン」、13「スウィート・ヴァージニア」(スタジオ)。
1995年にストーンズがこういったアクースティック・サウンド中心のアルバムを制作・リリースしたのには、やはり90年代当時の MTV アンプラグド・ブームがあったとみて間違いなさそうですね。古参ロッカーたちもどんどん出演し CD や DVD も出し、人気になっていました。だからストーンズとしてもちょっとやってみようかなという気になったのかも。『ストリップト』はストーンズ流アンプラグドってことだったんでしょう。
それで、ぼくの記憶ではたぶん1994〜95年のブードゥー・ラウンジ・ツアーからコンサートにアクースティック・コーナーが設けられるようになったと思うんですね。メイン・ステージからちょっと離れたこじんまりした小島のようなコージー・スクエアにメンバーが移動して、アクースティック・ギターを手に、親密なライヴ・パフォーマンスを数曲くりひろげたのでした。このアクースティック・コーナーはその後も(ある程度は)存続しているんじゃないでしょうか。
ライヴ・ツアーでのそういったアクースティック・セクションがなかなか好評なので、そんな感じで一枚アルバムをということで『ストリップト』の制作につながったのかもしれません。ストーンズは大規模なツアーをやるとそこから一枚ライヴ・アルバムを出すというのが通例ですが、ヴードゥー・ラウンジ・ツアーからはアクースティックな、しかもスタジオ・セッションも混ぜるというちょっと変則的な感じになりました。生音をしっかり録音しようと思ったらスタジオのほうがいいっていう判断だったのでしょうか。
個人的に『ストリップト』のアクースティック・セクションでグッと来るのは、中盤5曲目「蜘蛛とハエ」〜8「レット・イット・ブリード」までのパートです。特に「蜘蛛とハエ」、それから7曲目の「ワイルド・ホーシズ」が断然すばらしいと思うんです。前者は定型12小節ブルーズですが、オリジナルよりもテンポと雰囲気を落とし、グンと中年のセクシーさを出したようなアレンジと演奏に聴き入ります。特にキースのギターが色っぽくていいですね。
キースのギターがいいといえば「ワイルド・ホーシズ」でもそうなんです。この『ストリップト』ヴァージョンの「ワイルド・ホーシズ」におけるキースのギターは絶品と呼んでさしつかえないと思うんですね。東京の東芝 EMI スタジオで録音したというこのエンジニアリングもいいっていうことなんでしょう、音がいいし、それでこんなにキースのアクースティック・ギターが粒立ちよく聴こえるという面があるかも。イントロに歌のオブリガートにと、もう文句なしのすばらしさ。曲想にもピッタリ似合っています。
アクースティック・セクションの、というだけでなくこのアルバム全体のなかでも抜群の出来であると思う「ワイルド・ホーシズ」ですが、そこにはベース奏者の存在もあります。ダリル・ジョーンズの弾くエレベがしっかりと効いているでしょう。マイルズ・デイヴィス・バンドでも活躍したダリルがストーンズに参加したのは前作の『ヴードゥー・ラウンジ』からですが、本領発揮となったのは『ストリップト』からじゃないかと思うんですね。
アルバム終盤のアクースティック・セクションもいいし、なんども熱心に聴き込んだストーンズのアルバムという意味では、個人的にいまのところこの『ストリップト』が最後になっています。1995年発売作ということで、いろいろと当時の(買ったばかりのパソコンやパソコン通信関係の)思い出がからみついているアルバムなんですが、そんなこと諸々、今日は省略します。
(written 2020.2.14)