ストーンズ『ゲット・ヤー・ヤヤズ・アウト』で聴けるダサカッコよさ
The Rolling Stones — Get Yer Ya-Ya’s Out
1969年の全米ツアーから収録し70年に発売されたローリング・ストーンズのライヴ・アルバム『ゲット・ヤー・ヤヤズ・アウト』。ストーンズのライヴ盤はだいたいどれも好きですが、この『ゲット・ヤー』はこのバンドの実質的初ライヴ作品となったものですね。以前から読みかじる情報ではブートレグ対策としてリリースされたという側面もあったそう。
1972/73年以後のストーンズ・ライヴと比較すればまだまだ物足りない面もある1969年の『ゲット・ヤー』ですが、それでもぼくがけっこう好きなのは、後年のライヴにはない(カッコいい意味での)野暮ったさがあるからなんです。野暮ったさ、ダサさというと誤解されそうですけど、1曲目「ジャンピン・ジャック・フラッシュ」のこのノリを聴いてみてください。ズンズン進みながらも、ちょっともさっとした感じがあるでしょう。
2曲目「キャロル」(チャック・ベリー)なんかには典型的にそういったもっさり感が出ていますよね。シャープに切れ込む感じではなく、ズンズン、ゴロゴロと丸っこく乗っていく感じとでも言ったらいいのか、なんともいえない田舎くささ、垢抜けない野暮ったさをぼくはこのノリに感じるんですね。特にギター・カッティングにそれが顕著です。
ところで、「キャロル」でもリズム・ギターを刻んでいるのはやはりキース・リチャーズですが、ソロはミック・テイラーとどっちが弾いているんでしょうね。右チャンネルでカッティングしていてそのままソロに移行しますし、ソロ内容からしても、やっぱりソロもキースですかね。このバンドでソロがあるときはミック・テイラーが弾くというのが約束なんですけども、こういう曲もあるわけです。アルバムではこのほか「リトル・クイニー」「ホンキー・トンク・ウィミン」のソロもキースですね。これら以外のソロはミック・テイラーということで。
話戻ってこのアルバムで聴ける主にリズム・ギターのカッティングが表現している野暮ったいノリですけれども、もちろんビートの効いた曲で、ということなんで、だから「ストレイ・キャット・ブルーズ」「ラヴ・イン・ヴェイン」なんかにはありません。しかしアルバム後半でも「シンパシー・フォー・ザ・デヴル」「リヴ・ウィズ・ミー」「リトル・クイニー」などにも明確なもっさりノリがありますよね。
ダサいとか野暮ったいとかいっても、このリズム感が悪いとかノレないとかカッコ悪いという意味ではないので誤解なさらないでほしいんですけど、音を聴いていただければだいたいのみなさんにぼくの言いたいことは伝わるんじゃないでしょうか。明快でわかりやすく親しみやすいノリというか、1969年ということで、ストーンズ最大の影響源であったチャック・ベリー的なブギ・ウギ・フィーリングをかなり残していたということかもしれません。奇しくもチャックの曲を複数とりあげていますからね。
ぼくの聴くところ、このライヴ・アルバムではそういったダサ(カッコい)いノリがある意味スケール感をうまく表現できることにもつながっているなという気もします。2曲目の「キャロル」では特に強くこのことを感じるんですね。大物感、ズンズンと乗っていくフィーリングでロックンロールの歴史につながっているんだぞ、それを1969年のアメリカン・ライヴでイギリス人が表現しているぞというような、なんともいえない壮大なリズム感だなと思うわけです。
食べものなんかでもおいしい香りや味に混じるちょっとした臭みというか、そういったことが妙味を増して美味しさが格段に向上するということがあると思いますが、ストーンズの『ゲット・ヤー』で聴けるこの野暮ったいノリはそんな感じでロック・ミュージックのうまみをぐっとアップさせるなかなかグッドなものなんですね。チャーリーのドラミングもミック・ジャガーのヴォーカルもキースのダサカッコいい刻みに合わせてもっさりやっているし、ぼく的にはこの臭みそのものが美味しさ、カッコよさだなと感じています。
(written 2020.6.10)