もしもあの日に戻れたら 〜 ツェッペリン・コピー・バンド体験の思い出
https://open.spotify.com/playlist/6m5yWDQ2IMRmkJdxXtSl30?si=4zDurQJkRFGv_MflND1vSQ
レッド・ツェッペリンのコピーを歌っていたころ、そのバンドはギターリスト中心の4ピース・バンドでしたから、とりあげるものもやりやすいギター・ロックばかりで、だからジョン・ポール・ジョーンズがオルガンやメロトロンやシンセサイザーなど鍵盤楽器を派手に弾いているものは敬遠していました。敬遠というか、ムリですよね、素人高校生には、4ピース・バンドじゃあ。
最初に言っときますけど、そのバンドにぼくがヴォーカルで誘われたのは歌えるからじゃなくて、UK ロック・バンドで英語詞だからそれがマトモに聴こえるようにということで、戸嶋おまえ英語の発音いいんだからちょっとやってくんないかとなっただけです。歌うことじたいはその前から好きだったですけどね。
それでいちばん頻繁にやっていたのがやっぱり「ロックンロール」で、そのほか「コミュニケイション・ブレイクダウン」「胸いっぱいの愛を」(これはメドレーつきの『永遠の詩』ライヴ・ヴァージョンをコピーした、テルミンなしで)、「ハートブレイカー」「移民の歌」「貴女を愛し続けて」(オルガンは無視)、「天国への階段」(ギターだけでもなんとかなるし、やらないバンドはなかった)、「カスタード・パイ」「ザ・ワントン・ソング」などですね。
意外にやりやすくて、ぼくもバンドも好きだったのがアルバム『プレゼンス』の曲です。これの前まで鍵盤楽器をたくさん使って多彩なサウンド・メイクを聴かせていたツェッペリンですけど、このアルバムではギター・バンドという原点に立ち返ったようなシンプルなロック・サウンドで、といってもギターをめっちゃ多重録音しまくっている再現不能な曲もあり(「アキレス最後の戦い」)それはムリでしたけどほかの曲は真似しやすかったんですね。「キャンディー・ストア・ロック」とか「ホッツ・オン・フォー・ノーウェア」とか、楽しかったなあ、特に後者。
そのへんの『プレゼンス』ナンバーは参考になるツェッペリンのライヴ・ヴァージョンとか聴いたことなかったですけど、ぼくたちはとにかく文化祭などの要するにライヴでやりたいわけなので、あたりまえですスタジオ録音なんかやらないんですから、やっぱりツェッペリンのライヴ・ヴァージョンが、つまり1970年代末だとたった一個しか、二枚組だけど、なくて、すなわち『永遠の詩』。これに入っている曲はコピーしやすかったですよね。アマチュア・コピー・バンドはみなさんそうだったんじゃないですか。
いまでこそツェッペリンの公式ライヴ・アルバムはそこそこ出ています。といっても『DVD』と『ハウ・ザ・ウェスト・ワズ・ウォン』だけかな、でも前者には二枚にたっぷりあるし、後者は CD 三枚組ですしね。だからコピー・バンドのレパートリーも増えているかもしれません…、って、いまどきツェッペリンを真似しようっていう高校生なんていないのか…。
それでツェッペリンのライヴでもベースのジョン・ポール・ジョーンズがわりと鍵盤楽器を弾いていますが、鍵盤奏者ってアマチュア・ロッカー界隈ではかなりレアなんですね。滅多にいません見つかりません。たまにいてもクラシックかジャズをやっていて、ツェッペリンなんかに見向きもしませんから。それにだいたいみんながフロントで歌いたいかギター弾きたいかなんですからね。
ジョンジーが派手に鍵盤を弾いている曲のなかでは、『フィジカル・グラフィティ』収録の「カシミール」。これは(まだワールド・ミュージックなどなにも知らない)高校生のぼくでもなぜか大好きで、どうしてだったんでしょうねえ、ドラマティックな感じがするからなのか、なんとなくのエキゾティック(これのばあいアラブ音楽趣味)な香りをかぎとって好きだったのか、なんとかバンドでやりたかったんですけど、エレキ・ギターだけではどうにもサマにならず断念。だいたいスタジオ版では大規模管弦楽が参加していますし。
「カシミール」はツェッペリンのライヴでもジョンジーが派手にメロトロン(後年はシンセ)を弾きまくっているからこそのあのサウンド・カラーリングなんで、鍵盤抜きの高校生にできるわけないですよね。メロトロンってなに??状態だったんですからなおさらですよ。そもそも愛媛でメロトロンなんて入手できたんでしょうか?楽器本体が入手できてもメロトロンは録音テープがいるんだけど?演奏しているひといたんですかねえ?
ギターだってツェッペリンのスタジオ・ヴァージョンはどれもこれもめっちゃ多重録音してあって、だからこそ当時唯一のライヴ・アルバム『永遠の詩』が貴重な参照源だったんですけどそれだって実はライヴ収録後の発売前にスタジオで加工してあります。高校生当時これに気付いていたかというとあやしいですね。でも真似しやすかったのは事実。ブートレグのレコードを買っていた仲間(や弟も買っていた)がたくさんいたのはこういったことも理由です。ライヴ・ブートならそのまま真似できますからね。
ツェッペリンにめっちゃあるアクースティック・ギターものに当時興味を示さなかったのは、やっぱりライヴ会場で音を増幅してお届けしにくいかもと思っていたからなのと、な〜んかカッコよくないな、ロックじゃないとか、そんなふうに考えていたかもしれません。アホでした。ゼップは1970年代当時からライヴでもアクースティック・コーナーをやっていたくらいだったのに。それを知っていましたのにねえ。
特に『III』収録のアクースティック・ナンバーの数々やそのほか、もしいま2020年に高校生に戻れてあのころのあの声が取り戻せるならば、ぜひ歌ってみたいと思える曲がかなりあります。当時はエレクトリックなブルーズ・ロックにしか興味がなかったからムリもなかったんですけど、トラッドやフォークの世界の楽しさを知ったいまとなってはですね、たとえば「ギャロウズ・ポール」「ザッツ・ザ・ウェイ」「限りなき戦い」(サンディ・デニー役を見つけないといけませんけど)、「ゴーイング・トゥ・カリフォルニア」なんか楽しそうじゃないですか。
いまふりかえるとこれもやりたいという意味では、『聖なる館』A 面ラストの「ザ・クランジ」。変態的変拍子ファンクで、しかもシンセぎんぎんだからやっぱりムリだったんですけど、これ、歌詞の発音がおもしろいんですよね。ロバート・プラントがなにをしゃべっているのか高校生のころはサッパリでしたが、わざとなまらせてあるんですね。ロンドンのコックニーなまりでトーキング・スタイルのヴォーカルを披露していて、う〜ん、歌ってみたいなあ、楽しそう。もうこんな声は出ないからそこは高校生当時に戻って、英語の知識は57歳現在のものをもってきて…、ってムチャクチャやんけ。
そうそう、『聖なる館』といえばですね、レコードひっくりかえしての B 面トップ「ダンシング・デイズ」はやりやすいギター・ロックなので好きでした。この曲も楽しいんですよ。歌詞だってちょっと猥雑でおもしろいです。サウンドはシンプルなリフ中心ですしね。そう、シンプルな組み立ての(ブルーズ・)ギター・ロックばかりやっていたんですね。ツェッペリンにはわりとプログレ要素もありますけど演奏力が必要なのでそういった部分は無視していました。
それで上のほうで書いたような曲を中心にやっていたわけです。あ、そうだ、よくやった「ブラック・ドッグ」は曲の途中で変拍子をちょっとだけしかし何度も使ってありますよね。ちょっとのあいだのことですぐ8ビートに戻るんですけど、その9+5拍子部分はめんどくさいな〜とか最初思っていましたが、みんなでやってみたらポンポンポンポンと四つ数えればいいだけ、それで合わせられるとわかって、それからは9+5じゃなくて4でラクチンにやってました。試しにちょっと4で数えながら聴いてみてください。
(written 2020.2.5)