Spotifyは、サッカー・チームを持つくらいなら、利益を音楽家に還元してほしい
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音楽ストリーミング・サービス最大手Spotifyのオーナー、ダニエル・エク(スウェーデン)が、イングランドの強豪サッカー・クラブ、アーセナルを買収する動きがあるという報道に接しました。
4月29日付のこの記事に書いてあるのは約2730億円という買収予定金額。もうけているんですねえ、Spotify。それでも、四半期収益が数兆円にもおよぶようなAppleとかGoogleとかAmazonとかのIT大手に比べればたいしたことないでしょうけども。Spotifyの収入源は、広告料とユーザーから徴取している月額料金です。
サッカーの世界にはちょっと興味を持っているぼくなのでおもしろく読んだ記事だったのではありますが、まず真っ先に頭に浮かんだ気持ちは、ずばり、そんな大金をサッカー・チーム買収に用意できるほど財務状況に余裕があるのなら、自社で配信している音楽家やレコード会社にもっと多額を還元したらどうか、ということです。
もちろん起業家がなにしてどんだけもうけてその収益でなにをしようとも自由ではあります。ですが、Spotifyは音楽の世界で果たすべき社会的責任が大きなものになってきているんじゃないですか。音楽家の取り分が少ないという(実はやや勘違いな)批判的意見も見ますし、それへの説明責任をはたしていくためにもSpotifyにはやるべきことがあるはず。
日本だけをガラパゴス的例外として、世界の音楽産業におけるここ最近の常識は、ストリーミング配信が業界を救ったという事実。21世紀に入ったあたりからずっと尻すぼみ状態が続いていたフィジカル売り上げは、やはりどんどん下がっていく一方で、AppleやSpotifyなどのストリーミング・サービスの普及で一転収益増となったんですからね。
なかでも、過去10年、15年の音楽業界を見ると、Spotifyが音楽ビジネスを救ったことがわかります。それまで音楽ビジネスは15年連続で減収していましたが、ストリーミングが定着すると、その損失は横ばいになり、いまでも収益は増え続けているんです。
CDなどのフィジカルの売り上げに対してレコード会社へ支払われる額は約半分で、この割合は実はストリーミングとほぼ同じなんですね。Spotify などは売り上げの三割を取り、残り七割のうち権利者分を除いてレーベルに払われるのはだいたい50%といったあたり。
だから、フィジカルか?サブスクか?の違いは、「CDショップやレコード会社にお金を払う」か「ストリーミング・サービスにお金を払う」かの違いでしかないんですよ。このへん、一部では誤解があって、ストリーミングよりフィジカル買うほうが音楽家の応援になると主張する向きもありますが、間違いです。
しかしそうでありながら、各種あるサブスク・サービスのなかで、Apple MusicやAmazon Musicに比べ、Spotifyはレコード会社側や音楽家側の取り分が少ない設定になっているんじゃないか、言い換えれば音楽家から搾取しているんじゃないかという批判がずっとつきまとっているというのも本当のことです。裏付けるデータがありませんけどね。
現実的には、Spotifyは配信最大手で再生回数も最多であるため、そこからレコード会社、そして音楽家に支払われる金額も最も大きいんです。売り上げのなかから音楽家の取り分となる金額の割合も、実際にはさほど大きな違いはないようです(といっても各社とも資料を公表していないので、客観的な論証ができません)。
批判が消えない以上、Spotifyは、売り上げのなかからレコード会社に支払っている割合がどれだけなのか、データを公表したらどうですか。それをしない、できない理由があるのなら、フェア・トレードであることを示す一助として、せめて強豪サッカー・チームの買収よりも、その資金を音楽家サイドにまわすよう態度を改めるべきです。
レコード会社や音楽家へじゅうぶんな支払いをしていて、もうこれ以上は不要だいうほどになって、それでもなおかつ収益が増えて増えてお金の使い途に困るというような具合であれば、サッカー・チーム買収でもなんでもすればいいじゃないですか。現状、そういう状態だとはみなされていないんですから。
(written 2021.5.2)