都はるみの演歌グルーヴ

hisashi toshima 戸嶋 久
4 min readMay 8, 2020

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都はるみ / 都はるみゴールデンベスト

2015年のライヴ・コンサート・ツアーを最後に現役歌手活動を停止している都はるみ。きのう『都はるみを好きになった人』というトリビュート・アルバムの話をしましたが、カヴァー・ヴァージョンを聴けば、やっぱりはるみ本人のオリジナル歌唱を聴きたくなるというもの。それで Spotify でさがして聴いてみたんです。Spotify にはベスト盤みたいなものがたくさんありますが、現実、CD なんかでも同じ状況なんじゃないでしょうか。

だからどれでもいいからなにか適当に、と思ってピック・アップした2008年リリースの『都はるみゴールデンベスト』。出だしの「アンコ椿は恋の花」「涙の連絡船」「好きになった人」の三連発で、もう完全ノック・アウトですよね。個人的に最近こういったいかにもな古式ゆかしき演歌唱法から遠ざかりつつありますが、それでも聴けば聴いたで感動します。こういうのを正統派演歌グルーヴと言いたいですね。

もとから曲がいいっていうのも大きいですよね。これら三曲はいずれも典型的な演歌というか、ズンタタズンタタっていうリズムで、よっこいしょといいながら乗っていくような、そんな曲です。古いと言われようが、な〜んだ演歌じゃんと言われようが、はるみの歌で聴けばとってもいい感じに響きますから。楽しいうれしいというこの気分に嘘偽りはありません。

はるみのこの独特の節(こぶし)まわしもいいですよね。フレーズ途中や終わりでリキを入れてぐわ〜っと声を濁らせるところ、胸に迫ります。ソフトにやさしくことばを置いていくんじゃなく、もっとこうぐ〜っと強く声を張ってシャウトするような、そんな歌いかたですよね。日本の演歌、と言われてまず頭に浮かびそうなティピカルなというかステレオタイプかもしれませんが、それを編み出し定着させたのがはるみですから。

はるみの歌いかたの特色のひとつとして、フレーズ終わりでヴィブラートを強くかけ伸ばすとき、必ずしも音程を正確にヒットせず、ややフラット気味に声を止め(つまり上げきらず)、そのままでグワグワとヴィブラートで揺すりまくるといったことがあると思うんです。ある種、聴き手の気持ちというか情緒、フィーリングをわしづかみにするやりかたじゃないかなと感じます。わざと音を上げきらないでフラット気味のままでおくというのは、たぶん意識してやっているんでしょう。

揺れる心情、不安定な情緒を的確に表現するこんなはるみの歌唱法、後年は、簡単に言えば引退を撤回しての復帰後は、もっとストレート&ナチュラルなやりかたで歌ったものだってありますが、個人的には1980年代前半までの、特に「アンコ椿は恋の花」「涙の連絡船」「好きになった人」とか、それからなかんずく「大阪しぐれ」とか、そのへんで聴ける典型的なはるみブシにぞっこんなんですね。

そう、昨日も書いたんですけど、特に「大阪しぐれ」。も〜う、この曲のことがぼくは大好きで大好きでたまらず、だれの歌で聴いてもいいけどはるみのオリジナル・ヴァージョンはもう至高最高のものだとしか思えないんですね。これはヴォーカルもいいけど、それ以上に曲がチャーミングな絶品だということ。作詞作曲編曲の全面にわたって文句のつけようがないですね。作詞吉岡治、作曲市川昭介、編曲斉藤恒夫、完璧な仕事です。

「アンコ椿は恋の花」「涙の連絡船」「好きになった人」や、あるいは「大阪しぐれ」なんかでもそうなんですが、歌われている内容は必ずしもハッピーなものじゃありません。っていうか最初のそれら三曲はかなりつらいロスト・ラヴの歌ですよね。ところがはるみの歌を聴いてみてください、そこにはぐっと堪える心情というより、底抜けにといいたいほどの明るさがあるでしょう。曲の旋律がそうだからということなんですけど、はるみの声のトーンにも暗さや落ち込みはありません。

なかでも(「大阪しぐれ」は別格として)「アンコ椿は恋の花」と「好きになった人」。明るく奔放に、あっけらかんと笑い飛ばしているかのようなフィーリングすら、このはるみのヴォーカルには聴きとれます。だからこそこういった失恋すらもキュートでチャーミングに響くと思うんですね。ポジティヴなトーンが声にあると思うんですが、はるみが失くした恋を歌うときのこういった突き放したようなヴォーカル表現がぼくは本当に大好きです。

(written 2020.3.24)

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Written by hisashi toshima 戸嶋 久

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