絶滅危惧種みたいなローリー・ブロックのブルーズ・ギター
Rory Block / Prove It On Me
萩原健太さんに教えていただきました。
現代最高のアクースティック・ブルーズ・ギターリスト兼シンガーのひとりらしいローリー・ブロック(Rory Block)の2020年新作『プルーヴ・イット・オン・ミー』は、一曲のオリジナル・ソングを除き、すべて先人の女性ブルーズ歌手が歌ったもののカヴァーで構成されています。といってもぼくが知っていたのは 1「ヒー・メイ・ビー・ユア・マン」のヘレン・ヒュームズ、4「プルーヴ・イット・オン・ミー」のマ・レイニー、7「ウェイワード・ガール・ブルーズ」のロッティ・キンブロウ、8「イン・マイ・ガーリッシュ・デイズ」のメンフィス・ミニーだけ。
それ以外は、たとえばマドリン・デイヴィス、ロゼッタ・ハワード、アリゾナ・ドレインズ、マーリン・ジョンソン、エルヴィ・トーマス…、ってみなさん知ってます?ぼくは健太さんの上のブログ記事で読んでそうなんだと思って書き写してみただけで、ちっともわからないです。どうやら1920〜30年代のブルーズ・ウィミンばかりなんでしょうかね。
ともかくローリーの『プルーヴ・イット・オン・ミー』ではそういった先達ブルーズ・ウィミンの曲をとりあげて、アクースティック・ギター(+ベース+ドラムス)というきわめてシンプルな編成で弾き語っているんですが、ぼくの印象に残ったのはギターですね。はじめて聴いたギターリストですが、本当にうまいと思います。
アクースティック・ギター弾き語りの戦前ブルーズ・ギターリストを思い起こすんですけど、ローリーも同様に中低音弦でリズムをはじきながら高音弦でのスライド(などの)プレイで音を装飾してメロディを奏でているんですよね。そんな弾きかたをするブルーズ・ギターリストはもはや絶滅危惧種でしょう。古い録音などでしか聴けないんじゃないですか。
その意味ではローリーは生ける伝説、天然記念物のようなブルーズ・ギター・スタイルを持っていると言えます。全曲でそんなローリーの技巧が輝いていて、たとえば1曲目ヘレン・ヒュームズの「ヒー・メイ・ビー・ユア・マン」は、オリジナルにちょっと則してブギ・ウギのパターンをふまえているんですが、ギター・ブギですからかなり調子は異なっています。
そしてブギ・ウギのパターンを弾くと同時に1弦でシングル・トーンの装飾フレーズを入れているのが印象に残りますね。そのほかどの曲でもローリーは(リズムを刻む)中低音弦と(メロディを弾く)高音弦を同時に鳴らしていて、なかなかむずかしいことじゃないかと思うんです。できあがりがこれも戦前ブルーズ・ギターリスト同様あっさりさっぱりしていますからなんでもないように聴こえますが、かなりのテクニシャンに違いありません。
ブルーズと女性というと、ぼくはどうしても1920年代の(しばしばジャズ演奏家が伴奏した)都会派女性ブルーズ・シンガーたちのことを思い出しますが、実際今回のローリーのアルバムでもそこそことりあげられているみたいです。ローリーはジャズ・ミュージックっぽさを消し、というかアクギ一本だからそれは無理なんでやめて、もっとさらりと軽いフォーキーなテイストでカヴァーしていて、それもいい味ですね。
ところでこのローリー・ブロックの『プルーヴ・イット・オン・ミー』、国内盤も出たらしいというのでアマゾンでチェックして、そのページの説明文を読んでひっくり返りました。「パワー・ウーメン・オブ・ザ・ブルース」って…。ウーメンとはウィミン(women)のことかと思いますが、こんな音の英単語はありませんよね。
https://www.amazon.co.jp//dp/B085F46B7N/
(written 2020.5.2)