歌は曲につれ 〜 坂本冬美コンサート in 松山 2021
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開演中のステージは撮れませんので、こんな写真しかありません。許してください〜。
2021年10月6日、松山市民会館で開催された坂本冬美コンサート2021に行ってきました。14:00からの回と18:00からの回ともに。ちょこっと感想を書いておきますね。この日の松山公演は、前日の高知公演に続くもので、2daysの四国シリーズだったようです。
冬美自身のステージでのおしゃべりによれば、松山公演で今年のコンサートがまだたったの四回目なんだそうで、かつては日々コンサートコンサートがあたりまえだったのに、コロナ禍とはなんとむごいものでしょうと。
それでも昼夜ニ公演とも冬美の声にはハリとツヤがあり、全盛期コロナ前の勢いをまったく失っていなかったのにには感心しました。この一年半、生歌唱機会が極端に激減したせいで、喉が衰えて引退表明を余儀なくされた高齢歌手とか、歌がだいぶヘタになった若手歌手とか、いますが、冬美は日々の節制と鍛錬を怠っていないのでしょうね。
伴奏陣の生演奏も立派。腕を維持する努力を続けていたでしょう。松山市民会館大ホールのステージでは、冬美のための中央階段脇左右にあったバンド・スタンド。下手(向かって左)にドラムス、ベース、ギター二名、ピアノのリズム・セクション、上手にサックス、トランペット二名、ヴァイオリン、キーボード二名が陣取っていました。
「祝い酒」「あばれ太鼓」「夜桜お七」「火の国の女」など、自身の持ち歌中でも特に代表的なレパートリーを中心にステージは構成されていました。中盤には(演歌コンサートでは定番の)カヴァー曲コーナーもあり。おなじみ「また君に恋してる」はもちろん、「白い蝶のサンバ」(森山加代子)や「喝采」(ちあきなおみ)も歌いました。
この二曲は、冬美自身過去に歌ったことがあるようです。きのう現場で聴いて、そのできばえのすばらしさにおおいに驚いて、昼夜間にカフェで調べていて初めて知ったのですが、2013年の『LOVE SONGS IV〜逢いたくて逢いたくて』に収録されています。
きのうの松山コンサートでの「白い蝶のサンバ」「喝采」ニ曲のアレンジは、その『LOVE SONGS IV〜逢いたくて逢いたくて』ヴァージョンのものをそのまま流用しているみたいでした。特に「白い蝶のサンバ」の変身ぶりにはビックリ。森山のオリジナルは明るくテンポのいい軽快な調子だったのが、冬美のはしっとり重厚なソウル・バラードになっていて、それをみごとに歌いこなす冬美のヴォーカルの実力にもうなりました。しかし、だれがアレンジャーなんだろうなあ。
こういった曲での冬美は、ストレート&ナイーヴな歌唱法で、演歌系のコブシやヴィブラートを決して使わず、あっさりさっぱりと声を出していました。またこれら二曲に続き男装に早変えしての世良公則「銃爪」もビックリでした。スタンド・マイクを抱えて出てきて、それをグルグルふりまわしながら歌いました。
かと思うと、その次、司会者のMCをはさんでの後半一曲目が二葉百合子の「岸壁の母」。この戦争の歌を、いまの時代に万巻の思いを込めたように切々と綴る冬美のヴォーカルは、かなりこってりした演歌系のティピカルな歌唱法を聴かせていたのが印象的でしたね。
つまり、この日の冬美はどんな曲を歌うかによってヴォーカル・スタイルを自在に変化させていたわけで、自分の歌いかたはこうなのだからこれでぜんぶいくのだと決めて貫くのではなく、どこまでも曲本位。曲に合わせ、曲につれて、声の出しかただって多彩に変化させられる、本物のプロのワザをみた気がしました。
もちろん、冬美はこういったことを、かなり意識してあえて選びとって実行しています。歌手の使命とは、自己の表現スタイルを貫き通し自我を聴き手に聴かせることではない、あくまで曲を伝えることこそがやるべきことだと思い定め、どう歌えばその曲がよりよくリスナーに伝わるかを考え抜いているのです。
近年のスタジオ録音によるアルバムやシングルでは強い発声をしなくなっている冬美。しかし昨日のステージでは、曲により、声を張り上げ強くガナリ節を披露する場面も随所にありました。曲に合わせたという面と、一回性のライヴ・ステージならではのアピールということもあったと思います。
なお、昼夜ニ回のコンサートとも、セット・リストは全曲完璧に同じでした。そればかりかしゃべりの細部にいたるまでほぼ同一で、事前に用意周到に練り込まれたショウだったんだなということがうかがえました。おそらく前日の高知公演も同一内容だったのでは。それでも、冬美の声もバンドの演奏も夜公演のほうが充実していたように感じました。
最後に。司会者によるおしゃべりは、バンド・メンバーの体型いじりをやったり、冬美相手には結婚していない話題をいじったりで、はっきりいってシラけちゃいました。いまどき完全なるハラスメントですよ。
(written 2021.10.7)