ロックにおけるラテン・シンコペイション(3)〜 ビリー・ジョエル篇

hisashi toshima 戸嶋 久
4 min readApr 10, 2020

--

Billy Joel / Glass Houses

ビリー・ジョエルのアルバム『グラス・ハウジズ』は1979年録音80年発売。ちょうどそのころのパンクやニュー・ウェイヴの隆盛にあわせたように、ハードにとんがったロック・サウンドを指向している一枚で、それまでピアノ中心の洗練されたおしゃれなシティ・ポップみたいなだったビリーのカタログのなかでは異色作なんですね。シンプルなロック・サウンドを目指すということで、ゲスト・ミュージシャンを迎えずビリーのレギュラー・バンドだけで録音されたアルバムでもあります。

しかしついこのあいだ聴きかえしていたら、この『グラス・ハウジズ」のなかにはけっこうなラテン要素が混じり込んでいるぞということに気がつきました。1曲目「ユー・メイ・ビー・ライト」2曲目「サムタイムズ・ア・ファンタシー」はやっぱりふつうのストレート・ロックでしょうけど、ラテン香が鮮明になっているのはその次3曲目の「ドント・アスク・ミー・ワイ」からですよね。なんなんですか、このモロ完璧なラテン・ソングは。

カリビアンというかキューバ音楽に完全に入り込んでいるし、クラベスその他のラテン・パーカッションも大胆に活用、サビ部分では3・2クラーベが鮮明じゃないですか。いや、クラーベ感覚はこの曲全体をとおし(潜在的にしろ)流れているものなんですね。曲調も明るいし、まるでカリブの陽光のもと輝いているような、そんな雰囲気ですよね。乾いた感触の間奏のピアノ・ソロなんかもう。曲「ドント・アスク・ミー・ワイ」では一曲全体でリズムが跳ねているし、カラリと乾いたこのサウンドの質感、音色もカリビアンですね。

音色がカラリと乾いている、リズムが跳ねているという観点でラテン要素をさがすと、実はこのアルバム『グラス・ハウジズ』のなかにはたくさん見つかります。4曲目「イッツ・スティル・ロック・アンド・ロール・トゥ・ミー」は、新傾向だニュー・ウェイヴだなんだかんだ言ってもぼくにはやっぱり(オールド・)ロックンロールだよっていうマニフェストみたいな歌ですけど、サウンド的には実はあまりストレート・ロックっぽくなくて、むしろこのカラッと乾いたシングル・ノート弾きエレキ・ギターの音色もカリブふうですよね。

5曲目の「オール・フォー・レイナ」を経てアルバム B 面に入ると、そこはかとなきラテン・テイストはもっと出てきます。6曲目「アイ・ドント・ワント・トゥ・ビー・アローン」でも、なんですかこの出だしのつっかかるように跳ねているリズムは。主にドラマーがそれを表現していますが、コードを刻むギターリストのリズムがずれてレイヤーしていますから、まるでポリリズム。跳ねかたはラテンふうだけど、ポリリズミックなスタイルはアフリカンですね。サビ以後整理されてスッキリしちゃいますけど、サックス・ソロの乾きかたはやっぱりカリビアン。

7曲目「スリーピング・ウィズ・ザ・テレビジョン・オン」もリズムに跳ねが感じられますが、これはそれでもストレート・ロックの部類ですかね。でも続く8曲目「セテ・トワ(ユー・ワー・ザ・ワン)」ではこのアクースティック・ギターの乾いた音色とそれが表現するビートの跳ね感、さらにアコーディオンまで入っているし、フランス語でも歌っていることもあり、まるでクレオール・ミュージックみたいですよ。

9曲目「クロース・トゥ・ザ・ボーダーライン」でもエレキ・ギターのカッティングが中心になっているリズムの表現には跳ねたシンコペイションがあるように感じられますし、でも全体的にはストレート・ロックに近いなとは思うものの、アルバム全体でみてもロック・サウンドをまっすぐに追求してここまでラテン要素が出ているのはおもしろいところです。つまり、ビリー・ジョエルが意識せずとも、アメリカン・ロック・サウンドの血肉となって溶け込んでいるから、ラテン・テイストは自然にそのまま表れるものなんだなあと実感します。

(written 2020.2.29)

--

--

hisashi toshima 戸嶋 久
hisashi toshima 戸嶋 久

Written by hisashi toshima 戸嶋 久

loves music, coffee, food, cats, football. iPhone, iPads & MacBook Pro user. Miles Davis enthusiast listening to some others.

Responses (1)