レイラ・マキャーラの社会派エンターテイメント 〜『ザ・キャピタリスト・ブルーズ』

hisashi toshima 戸嶋 久
4 min readApr 4, 2020

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Leyla McCalla / The Capitalist Blues

bunboni さんの紹介で知りました。

昨日書いたアワ・ネイティヴ・ドーターズにも参加しているレイラ・マキャーラ。両親ともハイチの出身で、レイラ本人はニュー・ヨーク・シティ生まれです。楽器はテナー・バンジョーやチェロやギターなどをやり、歌も歌います。ニュー・ヨーク大学でクラシカルな音楽教育を受けたのちソロ音楽家として活動するようになったようで、現在はクレオール首都たるルイジアナ州ニュー・オーリンズに住んでいるんだとのこと。レイラのやる音楽もそんな出自や教育や環境を色濃く反映していますよね。

そんなレイラの2019年作『ザ・キャピタリスト・ブルーズ』、傑作でしょう。けっこう重たいっていうかシリアスなテーマが全編で歌われていますけど、音楽として聴いて楽しいエンターテイメントになっているというのが最高なんです。レイラはどの曲でもアメリカ合衆国の音楽にいままであった既存の表現様式をそのまま借用していて、深刻な社会派メッセージを明快でわかりやすい聴きやすいサウンドに乗せるのに成功していると思います。

その意味では1970年代のニュー・ソウルにも通じる本質を持っているアルバムと言えますね。しかもレイラの持ち味であるフォークやアメリカーナの要素はあまり感じられず、ぼくの聴くところではアメリカ黒人音楽の集大成みたいな作品に思えます。出だし1曲目のアルバム・タイトル曲は1920年代ふうのフィーメイル・ジャズ・ブルーズ(誤解の源だからぼくは使わないことばですがいわゆるクラシック・ブルーズ)で、それをしかも北部の都会スタイルではなくニュー・オーリンズ・ジャズのテイストにくるんでいるのがおもしろいところです。

ホンキー・トンク・ブルーズみたいなのがあったり(ちょっとカントリーっぽい)、三連ノリの典型的サザン・ソウルもあり(オルガンがソロをとるし)、そうかと思うとシリア問題をとりあげた「アレッポ」はファズの効いた轟音エレキ・ギターが炸裂するハード・ロック・ナンバーに仕上がっていて、ほかにもカリプソありラテンありザディコありと、一曲ごとに趣向を変えさまざまな音楽の衣をまとい、あたかもテンポのいい衣装替えを見せてくれているみたいで、登場するたびに違う服を着るファッション・モデルのショーを見ているような気分です。

経済や社会の問題を掘り下げるレイラの意識は、やはりハイチ系の出自を持つ黒人ならではだと思いますし、いままでもハーレム・ルネサンス期の作家ラングストン・ヒューズをとりあげたりしていたんですから、問題意識は一貫していると思います。しかしいままでと異なる今作『ザ・キャピタリスト・ブルーズ』での大きな果実は、エンターテイメントとしてグンと成長・成熟していること、決して社会派アクティヴィストじゃない、ミュージシャンなんだという部分、聴いて楽しめる音楽作品として完成させられるだけの懐の深さを獲得したことですね。

そのことには今作でプロデューサーをつとめ、多くの曲で演奏もしている(ギター、ベース、パーカッション)キング・ジェイムズの存在が大きかったようですね。アメリカ民衆のディアスポラとでもいうようなレイラの立ち位置から来る問題意識を音楽的に高度に充実したエンターテイメントに昇華するためのうまい媒介役を果たしてくれているように思います。チェロを一曲も弾いていないことにも関係したかもしれません。

(written 2020.2.25)

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Written by hisashi toshima 戸嶋 久

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