ラテン・ジャズ好きにオススメ 〜 ハービー・マンとチック・コリアのラテン・セッション集
Herbie Mann, Chick Corea / The Complete Latin Band Sessions
これはなに?Spotify でチック・コリアの『コンプリート・”イズ”・セッションズ』をまた聴こうと思って検索窓に “Chick Corea complete” まで入れたらこれも出た『ザ・コンプリート・ラテン・バンド・セッションズ』。これホントなんですか?ハービー・マンとの共同名義になっているけれど?リリース年が2007年。聴いてみたら1960年代のサウンドだし、チックというよりハービー・マンのセッション集なんですよね、たぶんチック修行時代の録音じゃないかなあ。ブートレグくさいですね。
なんにせよ結果OK。ラテン好き、それもチックのラテンとくれば大歓迎。それでぼくはチック・コリア好きだからその関連で見つけましたけど、調べてみたらこれは完璧にすべてハービー・マンのリーダー録音集なんですね。1965年のマンのバンドにチックが在籍していたみたいで、『コンプリート・ラテン・バンド・セッションズ』は、その65年録音の三枚のアルバム『マンデイ・ナイト・アット・ザ・ヴィレッジ・ゲイト』『スタンディング・オヴェイション・アット・ニューポート』『ラテン・マン — アフロ・トゥ・ボサ・トゥ・ブルーズ』を集大成したものみたいです。
1965年のハービー・マンのバンドにチックがいたなんて、無知なぼくはぜんぜん知りませんでしたが、マンがこんだけラテン・ミュージックに傾倒していたこともわかっていなかったんですね。ぼくだけ?ですよねえ。それでこういった音楽を展開したいがためにラテンが得意なチックを招き入れたんでしょうか?モンゴ・サンタマリアやウィリー・ボボといっしょにやっていましたからね。そのへんの事情はどなたかくわしいかたにおまかせします。
『コンプリート・ラテン・バンド・セッションズ』は、だから1965年のハービー・マンのバンドの録音集で、メンツはマン、チック、デイヴ・パイク(ヴァイブラフォン)、ブルーノ・カー(ドラムス)、パタート・カルロス・バルデス(パーカッション)+ベーシスト、にくわえセッションによってホーン陣などが参加します。二枚目前半にはオリヴァー・ネルスン編曲指揮のオーケストラも参加。
さて、このアルバム、わりとふつうのハード・バップみたいな演奏もまじっていますが、それ以外はラテン・ジャズ路線まっしぐらと言っていい内容でしょうね。チックに期待して聴くとたいしたことないしそもそも出番もあまりないしでガッカリしますけど、ハービー・マンのフルート演奏がすばらしいのと、それからなんといってもこのリズムですよね。アフロ・キューバンなこのリズムを聴いているだけで心地いいです。
特にドラマーのブルーノ・カーとパーカッションのパタート・カルロス・バルデス両名の叩き出すこの躍動感がたまりません。一枚目ではトロンボーン二本も参加、いい味のリフを演奏していますし、デイヴ・パイクのヴァイブもあざやかで聴きごたえあります。チックも決して目立たないとはいえ(ソロ時間なんかはあまりなし)、バッキングでラテンなリフを弾いていたりします。
アルバム一枚目で最もグッと来るのは7曲目の「パタート」でしょう。そこまではさわやかラテンみたいな感じでやっていたのに、この曲ではリズムが熱く大爆発。6曲目の「ムシ・ムシ」からすでに熱いんですが、続く「パタート」の熱量はハンパじゃないです。曲題どおりパタートのパーカッションが大活躍、チックもファンキー・リフを叩き続けていて、いやあ、これはすごいラテン・ジャム・セッションですねえ。
二枚目のほうではわりと知られたスタンダードを多くやっているのが目立ちます。レイ・チャールズの「ワッド・アイ・セイ」、ホレス・シルヴァーの「セニョール・ブルーズ」、ハービー・ハンコックの「ウォーターメロン・マン」など、いずれもオリジナルからしてラテンっぽい調子の楽曲ですが、ここでのハービー・マンらはよりリズムを強化してやっているのがグッドですね。オリヴァー・ネルスンのオーケストラ・アレンジも効いています。
オリヴァー・ネルスン・アレンジの妙といえば、この二枚目でぼくがいちばん感動するのが7曲目のボレーロ「インタールード」なんですね。主役のマンのフルートにからみつくブラス・アンサンブルのたゆたうようなゴージャスな響きがたまらないでしょう。メロウでスウィート、これぞジャズ・ボレーロの傑作と呼びたいできばえです。この曲はアレンジの勝利だと言えますね。二枚目後半はボサ・ノーヴァが多くなります。
(written 2020.2.15)