マフムード・ガニアのディープ・グナーワ(2)
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Mahmoud Guinia / Aicha
モロッコのマアレム、マフムード・ガニア(ギネア、ギニア)のことは、以前一度記事にしました。ディープなルーツ・グナーワを本領とするマスターで、ガニアの担当はゲンブリとヴォーカル。2017年の『カラーズ・オヴ・ザ・ナイト』のことをその翌年このブログでもとりあげたわけです。
これをリリースしているハイヴ・マインドというレーベルはアナログ・レコードしかリリースしないCDを出さないという会社で、しかしダウンロードやストリーミングといったデジタル配信にはきっちり乗せてくれるんで、貧乏庶民のぼくなんかはそれで助かっています。
そんなハイヴ・マインドが、2020年もマフムード・ガニアのアルバムをリリースしてくれました。ガニアはもう故人ですが、『カラーズ・オヴ・ザ・ナイト』に続くもので、『Aicha』。これもCDはありません。レコードだってすでに完売状態ですから、配信でみなさんどうぞ。
『Aicha』は新作というわけではなく、モロッコ現地で1990年代後半にカセットテープでリリースされていたものをリマスターしてリイシューしたものらしいです。どうりで音質がちょっとショボいような気が最初しましたが、ヴォリュームを上げれば無問題。
それに音楽そのものは最高ですしね。前作『カラーズ・オヴ・ザ・ナイト』がテンションの高さを特徴としていたのに比べると、ややリラックスしているかなといった様子で、ガニアの故郷エッサウィラで気心の知れた仲間により形成される小編成バンドで録音されたもの。
仲間といってもこのアルバムで聴けるのは、ガニアのゲンブリ&ヴォーカルのほか、カルカベ担当が一名、+少人数の男声バック・コーラスと、たったそれだけなんですけどね。グナーワ・ミュージックを演奏する必要十分なミニマム編成というわけでしょう。
それでこれだけのグルーヴを表現できているのは、ひとえにガニアのゲンブリとヴォーカルの持つパワーゆえです。カルカベは複数名の演奏者がいることもグナーワでは多いと思いますが、このアルバムの音を聴くかぎりでは一名だけに違いありません。その鉄製カスタネットは両手に一個づつ持ってカシャカシャ鳴らすものです。
ガニアのゲンブリ演奏の低音の野太さは特筆すべきで、音量を上げて聴いていると部屋の床が鳴るほどズンズンとお腹に響いてきて、魅惑的。そのフレーズはシンプルでパワフルだけど、リズム的には複雑で、グナーワならではのつんのめるようなハチロク(6/8拍子)をカルカベともども奏でています。
こういった儀式グナーワは聴き手をトランス状態に導く力があって、だんだんと気持ちよくなってきて、日常とは違う異次元世界に連れて行ってくれます。それで、聴き終わったころにはすっかり癒やされているというスピリチュアルなヒーリング・ミュージックでもあって、結果、現実の見えかたが変わってくるという、そんな音楽ですね。
グナーワは、ポップ・ミュージックとのミクスチャでも決してその神秘性を失いませんが、ガニアのやるようなモロッコ現地の儀式そのままのシンプル&ディープなグナーワには、ほんとうに音楽ファンを惹きつけてやまない不思議な魔力がありますね。死ぬまで離れられそうにありません。
(written 2020.11.26)