『ビギン・アゲン』の延長線上において聴きたいノラ・ジョーンズの2020年新作
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Norah Jones / Pick Me Up Off the Floor
ノラ・ジョーンズの新作『ピック・ミー・アップ・オフ・ザ・フロア』(2020)。この今年の新作、夏前ごろだったかなリリースされたとき聴いたんですけれども、そのときはふ〜んと思っただけで特になんとも思わず。悪いとも感じなかったけど、これといって感想もなかったんですね。
ちょっと思いなおして気を取りなおし、秋口にもう一回聴いてみました。そうしたらとてもいいアルバムだなと感じましたから、やっぱり時間をおくと音楽に対する感想も変わってくるもんですよね。そんなわけできょうはちょこっとだけノラのこの新作についてメモしておきましょう。
ノラのアルバムというと、昨2019年『ビギン・アゲン』が出ていて、しかし大勢のみなさんがそれを飛ばして2016年の『デイ・ブレイクス』以来のオリジナル新作フル・アルバムとお書きですよねえ。ぼくはちょっとそれ、どうかと思うんですよ。今年の『ピック・ミー・アップ・オン・ザ・フロア』は、あきらかに『ビギン・アゲン』があったからこその音楽ですからね。
『ビギン・アゲン』は、配信でリリース済みのシングル曲をちょこっと集めただけの企画ものEPだったということなんでしょうけれども、だからディスコグラフィから外されちゃうということなんでしょうけれども、あの『ビギン・アゲン』で聴けたピアノのブロック・コード・プレイ、それに乗せてブルージーに、まるで酔っ払いみたいに、フラフラとしゃべるように歌うという、あのノラの調子は、新作『ピック・ミー・アップ・オフ・ザ・フロア』でも同じじゃないですか。
たとえば2曲目「フレイム・ツイン」。これ、『ビギン・アゲン』で聴ける肌触りに瓜二つですよ。ブルージーで、ざらざらした演奏とヴォーカルの質感。ぼくはこういう音楽がわりと好きなんですよね。スモーキーな声の感触はいつものノラの調子ですけどね。歌詞をしっかり鮮明に発音せず、まるでろれつがまわらないみたいなヨタったフレイジングも好きです、ブルージーに聴こえて魅力的。
それに、実際、今年の新作『ピック・ミー・アップ・オフ・ザ・フロア』も、昨年リリースの『ビギン・アゲン』のもとになった各種セッションで誕生した曲群がもとになっているみたいで、落ちこぼれたそれらをノラもくりかえし聴いているうちに離れられなくなったんだそうですからね。
それで、やはり今回も『ビギン・アゲン』のとき同様、曲が書かれたセッションごとに少しずつ色合いの違う作品群が共存する一作に仕上がっているというわけですね。そんな寄せ集め感が、この新作『ピック・ミー・アップ・オフ・ザ・フロア』でもノラの多様な様相を見せてくれることに成功していて、演奏メンツも曲によってさまざまのようです。
ぼくが大好きで、はっきり言ってこれでノラに惚れちゃったといってもいいくらいだった昨年の『ビギン・アゲン』の、あくまでその延長線上に今年の新作もおいて聴きたいです。
(written 2020.10.17)