ストーンズ『ゴーツ・ヘッド・スープ』デラックス版は、『ザ・ブリュッセル・アフェア』が聴きもの
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The Rollling Stones — Goats Head Soup (Deluxe Edition)
長年ザ・ローリング・ストーンズの『ゴーツ・ヘッド・スープ』(1973)を苦手にしてきたぼく。だってね、問題はオープニングの1曲目ですよ。『スティッキー・フィンガーズ』(71)が「ブラウン・シュガー」でしょ、次の『エクサイル・オン・メイン・ストリート』(72)では「ロックス・オフ」で、ああいったかっ飛ばす爽快なロックンロールで幕開けしてきたのに、『ゴーツ・ヘッド・スープ』はなんですか、この「ダンシング・ウィズ・ミスター・D」って。どよ〜ん。
アルバム全体もギターより鍵盤楽器のほうが目立つようなサウンドで(実はそんなこともないんだけど)、いま考えたらこれはソウル/ファンク寄りの米ブラック・ミュージック志向ということなんですけど、むかしはストーンズにギター・ブルーズ・ロックしか求めていなかったですからねえ。テンポよく快調に飛ばす曲もアルバムにあまり、というかほとんどなしで、だからちょっとねえ、スロー/ミディアム・ナンバーばっかりで。
でも今年9月5日に『ゴーツ・ヘッド・スープ』のデラックス・エディションがリリースされました。出る前からいろいろと話題になっていたもので、それはいかにもいまどきのSNS全盛時代らしい盛り上がりかただったんですけど、そんなわけでSpotifyで流し聴きしてみたんですよね。そうしたらちょっと思うところがあったんで、感想を書いておきます。
Spotifyにある『ゴーツ・ヘッド・スープ』デラックス・エディションは、フィジカルでいう3CD版ですね。音質の違いなんかはぜんぜんわかりませんが、今回の拡大版発売で個人的にいちばんグッと来るのは、CDだと三枚目にあたるライヴ・サイドです。なんとこれはかの名作『ザ・ブリュッセル・アフェア』じゃありませんか。もうこれだけで大歓迎。この名作ライヴ・アルバムが配信で聴けるようになったのいうのは快挙ですよ。も〜う、大好きなアルバムなんです。これからはSpotifyで聴けるんだと思うだけでうれしい。
『ザ・ブリュッセル・アフェア』は『ゴーツ・ヘッド・スープ』発売から約三ヶ月後の1973年10月ライヴということで、中盤にその新作披露セクションがあるんですね。5「スター・スター」、6「ダンシング・ウィズ・ミスター・D」、7「ドゥー・ドゥー・ドゥー・ドゥー・ドゥー」、8「アンジー」と。その前後は黄金のストーンズ流ロックンロールのオンパレードですけど、ファンキーな『ゴーツ・ヘッド・スープ』セクションが異彩を放っています。
こうやってライヴで聴くと、なかなか悪くないなと思える『ゴーツ・ヘッド・スープ』セクション。それでもやっぱり「ダンシング・ウィズ・ミスター・D」とかはイマイチおもしろみがわかりません。う〜〜ん。でも続く「ハートブレイカー」なんかはかなりいいじゃないですか。スタジオ・ヴァージョンよりいいかも。ビリー・プレストンの弾くクラヴィネットがファンキーに粘りつきます。むかしギターでよく練習していた「アンジー」は、いまではそうでもないかもなあ。
とにかくですね、この80分近い『ザ・ブリュッセル・アフェア』がCDでも配信でも正規にいつでも聴けるようになったということの意義は大きいです。もともと『ゴーツ・ヘッド・スープ』発売記念キャンペーン・ツアーの一環だったから今回のボックスに入ったわけですけど、ライヴそのものはもっと前からの代表曲をたくさんやっているし、なんたってミック・テイラーの弾きまくりギター・ソロやオブリガートが超うまあじで。
この『ザ・ブリュッセル・アフェア』がふくまれていることだけでも、今回の『ゴーツ・ヘッド・スープ』デラックス・エディション発売の意義があろうというものですよ。
『ゴーツ・ヘッド・スープ』本編は、聴きなおしてもやっぱりいまだに苦手なんですけど、レコードでいうところのB面はそれでもわりと聴けますよね。1曲目の「シルヴァー・トレイン」とラスト5「スター・スター」がお得意のチャック・ベリーふうロックンロールでカッコいいし、2「ハイド・ユア・ラヴ」はピアノ・リフ中心の正調ブルーズ。好きです。
おもしろいのはB面4曲目「キャン・ユー・ヒア・ザ・ミュージック」ですね。この、笛みたいな音はいったいなんの楽器でしょうか?米英欧の音楽で使われる一般的な管楽器じゃありません。あたかもかつてブライアン・ジョーンズがモロッコの音楽に入れ込んで制作した例のアルバムで聴けるような、そんな北アフリカ系のなにかの笛みたいに聴こえ、それがこの「キャン・ユー・ヒア・ザ・ミュージック」全体で効果的に挿入されています。オカリナっぽい気もしますが、違うようにも思います。
だいたいストーンズはこういったちょっぴりのエキゾティック・テイストを混ぜ込むのが以前から得意で、ときどき無国籍な曲をやったりするんですけど、『ゴーツ・ヘッド・スープ』を録音した1970年代初頭あたりまでだと、まだまだそれが残っていたんですね。こういったシックスティーズ的な、異国文化(というかインドとかアフリカとか)への憧憬みたいな部分は、70年代半ば以後のストーンズからは消えちゃいました。
(written 2020.10.8)