スティーリー・ダン復活を告げたフェイゲン『カマキリアド』

hisashi toshima 戸嶋 久
4 min readSep 13, 2020

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(5 min read)

Donald Fagen / Kamakiriad

1993年にリリースされたドナルド・フェイゲンのソロ二作目『カマキリアド』。けっこう好きで、当時くりかえし聴いていましたが、このアルバムにはなかなか大きな意味がありました。フェイゲンのファースト・ソロ・アルバムである名盤『ザ・ナイトフライ』が1981年の作品。実に久々の復帰作だったということと、もう一点もっと大きなことは演奏とプロデュースでウォルター・ベッカーが参加しているということです。

いうまでもなくウォルター・ベッカーはフェイゲンの盟友にしてスティーリー・ダンの中核メンバー。そのベッカーが実にひさかたぶりに、スティーリー・ダン解散後はじめて、フェイゲンと組んだということで、ぼくらとしては『カマキリアド』CD でそのクレジットを見たときちょっと興奮したもんです。やや、これはひょっとしてスティーリー・ダン再始動の兆しじゃないのか?とかってですね。

はたして実際そうなりました。アルバム『カマキリアド』販売促進キャンペーンという意味もあって、フェイゲンとベッカーはスティーリー・ダンを再結成し、1993、94年と全米をライヴ・ツアーしてまわったんですね。 その様子はライヴ・アルバム『アライヴ・イン・アメリカ』で聴くことができます(Spotifyにもあり)。このツアーをきっかけにダンは本格再始動、スタジオ録音作などもリリースしライヴも活発になりました。

そんな一連のスティーリー・ダン再始動関連の動きの端緒になったのがフェイゲンの『カマキリアド』だったということで、そんな意味でもなかなか思い入れのあるアルバムなんですね。そしてそれ以上にぼくはこのアルバムの音楽が好き。なにが好きって、サウンドが乾いていて人工的な感触がするところですね。あんがいそういったものも好みに感じるときがあるんです。

でもこれはやや意外でもあります。かつてのスティーリー・ダン全盛期には、不確定要素の多いライヴをとりやめ、スタジオでの緻密な組み立てにこだわって作品を仕上げていたフェイゲンとベッカー。しかし1993年ともなれば演奏するミュージシャン個々の力量も上がっているし、なんといってもテクノロジーの進歩が著しく、フェイゲンの思い描くサウンドを具現化しやすくなっていました。

だから、かつてのような作業をくりかえす必要もなくなっていたわけで、人力での生演奏をそのまま重ねただけでもなかなかのクォリティを獲得できるようになっていました。実際『カマキリアド』の録音制作は、以前のような過剰とも思えるスタジオ密室作業が減っていたんじゃないかと思えるんですよね。より生のグルーヴをそのままパッケージングしたというに近いプロデュースだったんじゃないかと思えます。

それなのに、結果的にはこんな人工的でドライな感触の響きがするというのは、なかなか興味深いところです。なぜそんなことになるのかはぼくにはまったくわかりません。さて、このアルバム、出だしはまあまあの感じではじまりますが、いいなぁ〜!とほんとうに感じるのは4曲目の「スノウバウンド」からです。この曲は大好きですね。グルーヴがね、いいと思うんですよ。ベースもエレキ・ギターのサウンドもフェンダー・ローズもオルガンもみごとに情景を描写しているし、曲のメロディも、サウンド構成も、そしてリズムも好きですね。

そこからはほんとうにいい曲が続きます。4「スノウバウンド」が突出してすばらしいと聴こえるんですが、その後も5「トゥモロウズ・ガールズ」のベース・パターンやリズムのノリのカッコよさ、メロディのポップなキュートさなどみごとですし、6「フロリダ・ルーム」でのテナー・サックスの活かしかたや半音で動くメロもいい。ホーン・リフもかっこいいです。8「ティーハウス・オン・ザ・トラックス」のグルーヴも快感ですよ。終わるのが惜しいくらいです。

(written 2020.8.2)

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Written by hisashi toshima 戸嶋 久

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