ジミー・フォレストの「ジーズ・フーリッシュ・シングズ」が美しすぎる 〜『ブラック・フォレスト』
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Jimmy Forrest / Black Forrest
テナー・サックス奏者ジミー・フォレストは、いわゆるタフ・テナーっていうかジャズとリズム&ブルーズの両方に足を入れているハード・ブロワーの系列に入るひとりでしょうね。こないだなぜだか思い出して、聴きなおしたいと思いSpotifyで検索して出てきた『ブラック・フォレスト』の話をちょこっとしておきます。ジミーはマイルズ・デイヴィスとの共演だって録音が残っていてCDでもサブスクでも聴けるんですよ。
さて、アルバム『ブラック・フォレスト』は1959年の録音であるにもかかわらず、デルマーク・レーベルからリリースされたのは72年になってから。中身は充実しているので、これはちょっと意外なことですよねえ。どうして当時発売しなかったのでしょうか。
1952年には「ナイト・トレイン」でR&Bチャートの一位を獲得しているくらいのジミー・フォレストで、だからコテコテ系のイメージがありますし、デルマークもシカゴ・ブルーズの名門レーベルでありますが、『ブラック・フォレスト』はストレートで穏当なジャズ作品で、みんなにとって聴きやすいでしょう。
サックス+ギター+ピアノ・トリオというバンド編成でやっているわけですが、そのうちギターのグラント・グリーンにとってはこの『ブラック・フォレスト』になった1959年12月録音が初レコーディングでした。ほかの三人だってまだ若手と言えた時期です。
ジミー・フォレスト自作のスウィンギーなブロウ系ジャンプ・ナンバー(ぜんぶ定型ブルーズ)とスタンダード・バラードとの二種類で構成されているアルバムですが、個人的にはプリティなバラードのほうが印象に残ります。三曲、「ジーズ・フーリッシュ・シングズ」「ユー・ゴー・トゥ・マイ・ヘッド」「ワッツ・ニュー」。もう一曲、「バット・ビューティフル」がありますがこれはグラント・グリーンをフィーチャーしたギター・ショウケースで、ジミーはおやすみ。
ジミー・フォレストがきれいにきれいに吹く三曲のスタンダード・バラードはいずれもすばらしいですが、特にグッとくるのは「ジーズ・フーリッシュ・シングズ」(マスター・テイクのほう)です。ここでのジミーのこのテナーのサウンド、音色、フレイジングなどなど、どこをとっても文句のつけられない美しさで、まさしく絶品のひとこと。同じ楽器ならベン・ウェブスターをも超えるかと思うほどですが、音色のシャープな硬質さからいえばコールマン・ホーキンスを思わせるものがありますね。
硬くて太くて丸いテナー・サウンドで朗々とフレーズを重ねていくさまはほんとうに感動的で、「ジーズ・フーリッシュ・シングズ」という曲はこのジミー・フォレストの演奏が最高のヴァージョンになったのでは?と思わせるほどのできばえです。歌詞の意味をかみしめながら吹いているような、そう、インストルメンタル演奏だけど<歌>が聴こえてくる、しんみりした気持ちになれる演奏です。なにより美しい。
「ユー・ゴー・トゥ・マイ・ヘッド」「ワッツ・ニュー」もみごとですが、「ジーズ・フーリッシュ・シングズ」があまりにもすばらしすぎるためかすんでしまっているほどですね。会社側としてもたぶん同様の見解なんでしょう、CDリイシューの際に別テイクを付加したわけですからね。テナーのサウンドそのものに説得力がありますし、ジミー・フォレストによる畢竟のバラード名演と言えましょう。
(written 2020.12.17)